IoTの進むテクノロジー社会では電磁波が所狭しと飛び交っています。電子機器の安定稼働には、ノイズコントロール(EMC対策)が必要不可欠です。ノイズ問題は通信障害という枠を越えて、ノイズ障害からエレクトロニクス機器の誤動作や情報漏洩を防ぐ考え方に発展してきました。
キャッシュレス決済・自動運転・高度医療・スマートハウスなど、高い安全性と信頼性の確保が私たち自身を守ることにつながります。今まさに、ノイズ対策としてシールドケースの役割は重要なものとなりました。電子機器の企画から設計・試作・製品化まですべての段階で、効果的なノイズシールド対策を強力にサポートするのが、小林スプリング製作所の役目です。
ノイズ対策の基礎
電磁波とは
電気が流れるところに発生するエネルギーの波のことです。「電界(電気)」と「磁界(磁気)」という2種類の性質の違うエネルギーが相互に作用しながら波のように伝わるものを「電磁波」と呼んでいます。電磁波は通信や医療・調理など幅広く活用されており、現代社会ではなくてはならない技術となっています。一方で有害な電磁波は、電子機器などにノイズとして悪影響を及ぼすものにもなりうるのです。
EMCとは
EMCはElectromagnetic Compatibilityの略で、JISでは電磁両立性と定義されています。電子機器のノイズ対策のことをEMC対策ともいいます。ノイズ問題にはEMI(電磁妨害=エミッション問題)とEMS(電磁妨害感受性=イミュニティ問題)があり、この双方を両立させる考え方をEMC(電磁的両立性)といいます。
つまり、「他のシステムにノイズ障害を与えず(EMI)」「他のシステムや自らが出すノイズの影響を受けない(EMS)」というのがEMCです。わかりやすくいえば、「ノイズを出さない」「ノイズの影響を受けない」。つまりEMCとは、発生ノイズと侵入ノイズ、双方の対策を確実に実施することです。
EMCの必要性
身近な例ではラジオに雑音が入ったり、電子レンジを使ったら無線LANが遅くなったりといった経験をした方もおられるのではないでしょうか。病院の医療機器やペースメーカーを使用する方の周囲での携帯電話の電源オフ、飛行機の離着陸時の電子機器使用制限などもノイズによって機器の動作に支障をきたす可能性を懸念した対策です。適切にEMC対策を行わなかった場合、ノイズによりときには重大な事故につながってしまうかもしれません。また、情報通信の普及に伴い個人・機密情報の漏洩や電子マネーなどによるキャッシュレス決済を悪用した被害にあわないようにする対策が必要です。そのような理由から、国際的にもEMCに関する規格や規制が行われています。
ノイズとは
ノイズとは、雑音を意味する英語で不要な音や情報一般のことです。特に電気通信の分野で扱われることが多く、音声では雑音、 映像では電波障害による画面の乱れなどをノイズと呼びます。また、電子機器から漏れた電磁波を他の電子機器が拾うことによって発生するノイズ障害もあります。実は電気信号もノイズも同じ電磁エネルギーです。必要なものは"電気信号"、有害なものは"ノイズ"として扱われます。携帯電話や無線機から出る通信用の電波もときにはノイズとなりえます。
電磁ノイズ障害とは
電子機器に外部から強力な電磁波が加わると、回路に不要な電流が誘導され、意図しない動作を引き起こすなど、本来の動作を妨げる場合があります。また、音声に雑音が入ったり映像が乱れたりして、欲しい電波が受信できない場合も。些細なノイズも機器によっては甚大な影響を与えることがあります。このような電磁波による障害を電磁ノイズ障害と呼び、障害を与える電磁波を電磁ノイズと呼んでいます。
デジタル回路から発生するノイズ
接点や高周波利用機器からの漏洩、不要輻射(デジタル回路からの高調波の放射やスイッチング電源でのリンギング)などディファレンシャルモード(ノーマルモードノイズ)/コモンモードノイズ/信号の高調波など。イントラシステムEMC
無線通信機能を持つ電子機器では内部の回路が発生するノイズが元で、無線通信のアンテナに干渉する受信感度低下が起こることがあります。このような問題をイントラシステムEMCと呼んでいます。ノイズ伝導の種類
伝導ノイズとは電源線や信号線、プリント基板の回路パターンなどを通じて、信号と一緒に伝わるノイズのこと。放射ノイズとは空間を不要電磁波として飛来するノイズのことです。伝導ノイズが放射ノイズに変身したり、放射ノイズが伝導ノイズに変身したりすることもあります。
空間伝導(放射ノイズ)
発生したノイズが空間に放射され不要電磁波として周囲に飛来するノイズのことです。シールドケースや回路パターンの変更による対策が効果を発揮。
導体伝導(伝導ノイズ)
電源線や信号線などのケーブルやプリント基板の回路パターンを通じて信号と一緒に伝わるノイズです。電子部品(フィルタ・フェライトなど)による対策が効果を発揮。
ノイズの性質別種類
高周波ノイズ
CPUのクロック周波数や電源のスイッチング周波数などの高周波ノイズ。
パルス性ノイズ
リレーやモータ駆動時に発生する接点ノイズなどの一過性ノイズ。
サージ性ノイズ
雷や静電気などの過渡的な異常ノイズ。
ノイズ対策方法
電子機器のノイズ対策を行うためには、各ゾーンごとに電磁シールドをほどこし、インタフェース部には各種ノイズフィルタを使用します。さらに、ゾーン内で発生するノイズについても適切なEMC対策をとる必要があります。
ノイズ対策の4つの手法
1. シールドケース | |
2. 反射 | (インダクタ/フィルタ) |
3. 吸収 | (抵抗/フェライト) |
4. バイパス | (コンデンサ/バリスタ) |
+. パターン設計 |
1.シールドケース
(ボードレベルシールド) (オンボードシールド)
電磁波の発生源を直接覆うことでノイズの放射を防ぎ外からのノイズを遮断します。エミッション/イミュニティの両方に効果を発揮。主に空間伝導によるノイズの対策として用いられ、静電誘導(電界)/電磁誘導(磁界)の両方を減衰させることが可能です。金属で覆って安定電位面(フレーム、グランドなど)に放射ノイズを流すか、電波吸収体や電磁シールド材で吸収して熱に変換します。高周波回路を設計する際、EMC対策として回路ブロックを外部からの放射ノイズ(イミュニティ)からの影響を避ける目的でシールドケースを使用する手法が良く用いられます。BLS(Board Level Shielding)やOn Board Shieldと呼ばれることも。筐体シールドとは異なり、基板に直接実装されるボードレベルシールドでは発生源のノイズレベルをピンポイントで下げると同時にノイズを伝達しにくくします。また、障害を受けにくくする効果もあるため内部ノイズ・外部ノイズの両方に有効です。さらに、電子部品のように自動実装が可能であることから組立性が良好です。
電磁波シールドの原理
電磁波シールドの材料
スキマ:開口部のサイズ(特に高周波)
接触抵抗:良好なグランドとの接続方法
2. 反射(インダクタ/フィルタ)
主に導体伝導によるノイズの対策として用いられる。伝導ノイズは、まずノイズ発生源に戻し、回路に出来るだけ侵入しないようにします。対策部品はインダクタ、LCフィルタなど。フィルタは配線を伝導する電流のうち、電磁ノイズの原因となる成分だけを抽出し、除去するもので、電気信号ノイズを分類する役割をします。3. 吸収 (抵抗/フェライト)
回路に侵入した伝導ノイズを吸収して熱に変換します。対策部品は抵抗、フェライトビーズなど。磁気結合をうまく利用しコモンモードノイズに作用するように工夫されています。4. バイパス(コンデンサ/バリスタ)
回路に侵入した伝導ノイズを安定電位面(フレーム、グランドなど)に流します。対策部品はコンデンサ、バリスタなど。静電気などの突発性のノイズに対して、効果を発揮します。+. パターン設計
ラインの距離や平行・隣接・交差などのレイアウトや部品の配置・GNDの取り方、インピーダンス制御などによる対策を行います。EMC規格規制
EMCの対象分野は広く、国際規格から地域規格、国家規格、業界規格や社内規格まで様々です。
国際審議機関
・IEC(国際電気標準会議):CISPR(国際無線障害特別委員会)
・ITU(国際電気通信連合)
・ISO(国際標準化機構)
日本
・JIS(日本産業規格)
・VCCI(情報処理装置等電波障害自主規制会議)
・電気用品安全法:PSEマーク
・電波法
・JASO(日本自動車規格)
米国
・ANSI(米国規格協会)
・FCC(連邦通信委員会)
・MIL(米軍仕様書)
欧州
・CENELEC(欧州電気標準化委員会):EN(欧州規格):CEマーク
中国
・GB(中国国家規格)
・AQSIQ(国家市場監督管理総局):国家承認認定監督管理委員会:EMCマーク
熱対策
高速・高性能化が進む電子機器において、発生する熱エネルギーが大幅に増加していることが問題となっています。シールドケースの役割は電磁波シールドにとどまらず、放熱対策としても重要なファクターであり、熱源の集中を回避するため熱拡散を促進するなど、冷却効果を高める製品構造との連携が必要です。当社では製品の設計思想に合わせ、より放熱効果の高い材質や形状などのご提案が可能ですので、お気軽にご相談ください。
5G通信によるノイズ対策
5Gの通信サービスが一部で開始され、次世代通信として期待されています。一方で、LTEやWi-Fiなど既存の通信と同居することにより、よりノイズ問題が複雑になることも予測されます。原因に対し、一つ一つしっかりと対策をしていくことがますます重要です。また、ミリ波帯では受信感度の低下をなるべく回避し、通信の安定化を図る必要があります。内部のデジタル回路などから発生する放射ノイズを内蔵アンテナが受信してしまうと、通話品質やディスプレイの画像品質を劣化させ、スマートフォン内で自家中毒という問題が発生してしまいます。高速通信による情報量の増加は、ノイズ対策に加え熱対策の重要性も増すため、設計の難易度を上げているのです。